こんにちは、アジアン乗り鉄ティンギです。
今年も犠牲祭、イドゥル・アドハの季節がやってきました。
イスラム教的なインドネシアのイベントというと、イドゥル・フィトリ(レバラン大祭)が有名ですが、犠牲祭はイドゥル・フィトリとならぶイスラム教の二大祭事です。
犠牲祭では、日本のお盆休みさながら多くの人がジャカルタから帰省するので、インドネシア国内で民族大移動が起きます。
犠牲祭はレバランの約2か月後なので、この数カ月間はインドネシアではちょっとしたイベントラッシュです。
屋台のオーナーなどはレバランで帰省後してからそのまま犠牲祭が終わるまでジャカルタに帰らない人もいます。
今回、大規模な社会制限の緩和を受け国内の移動が自由化されたので、私も半年ぶりに嫁の実家に帰りました。
※犠牲祭の動画はこちらです
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で、その時参加したチルボンでのイスラム教の犠牲祭(2020年)の期間・場所・儀式の内容について今回はお話しします。
Contents
イスラム教の犠牲祭
イスラム世界で行われる犠牲祭の由来は旧約聖書です。
預言者の一人、イブラヒムが神に従い自分の息子を生贄としてささげたところ、羊に変わったという故事からです。
そのため、犠牲祭が動物を神に捧げる祭りと認識されているようですがそれはちょっと違います。
犠牲祭の本当の意味を一言で言うと
富の再分配
です。
これは、
奢る者は施しを与えよ
という相互扶助の精神がイスラム教の根本的な考え方だからです。
貧しい人々の気持ちを理解するのが断食(ラマダン)だとしたら、それを理解し善行を実践する場が犠牲祭というわけです。
経済的に豊かな人が提供した肉は貧しい人々の役に立てられます。
地域の有力者や経済的余力のある家庭が牛やヤギを買い、それらの生贄となる動物を解体して隣近所に配ります。
レバランでムスリムの義務(ファルド)とされるザカート(米などの寄付)と意味は同じです。
ただ、犠牲祭で牛やヤギを捧げることは推奨(ワジブ)されるものの義務ではありません。
インドネシアの場合はそもそも農業を中心とした相互扶助社会なので、宗教的というより社会的イベントとして犠牲祭が文化的に根づいています。
犠牲祭というと街をあげて一日中お祭りをするイメージが思い浮かぶかもしれませんが、どちらかというとお盆休みの静かな雰囲気に近いです。
2020年イスラム教の犠牲祭の期間
犠牲祭は
ヒジュラ歴で第12月の第10日から4日間行われる
とされています。
ヒジュラ歴は陰暦で閏月も挟まないので、ラマダンと同じく年々スケジュールは前倒しになっていきます。
インドネシアではカレンダー上「イドゥル・アドハ」の祭日は一日だけで、住民が参加する特別の礼拝もその日のみ行われます。
2020年のイドゥル・アドハは
7月31日
でした。
それ以降の3日間はまったく普段どおりで、イベント感はありません。
この辺は、インドネシアの「イドゥル・アドハ」は、本場アラブの犠牲祭「イード」やトルコの「クルバンバイラム」とすこし違い、街中がお祭り騒ぎになるということはありません。
ただ、イドゥル・アドハ当日に解体されなかった動物は三日目まで屠殺することができ、モスクに翌日までヤギが繋がれている光景をしばしば目にします。
今年はコロナウイルスによる不景気で、31日の午前中でほぼ処理が終了したところがほとんどと聞いています。
犠牲祭の実施場所はモスク?
何をもって犠牲祭とするかですが、犠牲祭の特別の礼拝はモスクで行います。
なので、その意味ではモスクです。
しかし、動物の屠殺はモスクの駐車場や庭で行うことが多いですが、学校や一般家庭、会社で行うこともあります。
今年はコロナウイルス対策のため、開放的な場所や土のあるところで動物を解体するよう指導されていたので、私の田舎でもモスクの裏の林の中でひっそりと行われました。
※犠牲祭の動画はこちら
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犠牲祭の儀式の流れと内容
儀式というほど大それたものではありませんが、6時半ごろから特別の礼拝がモスクで行われます。
基本的に地域の住民はみんな参加します。
早朝のスブーのお祈りと同じように2ロカート(2セット)のみで、簡単なお説教と誰がヤギを寄贈したという案内で15分ちょっとで終わります。
犠牲祭は基本的にこれだけです。
朝の礼拝が終わるとみんな家に帰ります。
屠殺は礼拝とは別の機会に行われ、だいたい8時半くらいから始まります。
動物の屠殺は自由参加(見学)で、小さい子どもか私のような物好きが見に行くくらいで、自治会のおじさんとモスク関係者、解体の専門業者で淡々と進められます。
なお、屠殺の前に関係者のみでお祈りをして、ナイフを刺すとき「アラー・アクバル」と唱えることが義務付けられています。
このとき動物のアタマはキブラの方向に置いて、首の下から気管・食道・頸動脈を一気に切断して苦痛を感じることなく絶命させることが求められます。
生贄の動物が絶命する前に首を切り落とす、皮を剥ぐ行為は禁止されているので、先に血がすべて抜けきるのを待ちます。
昼前までには初回の解体が一とおり終了し、近所の家々に小分けにされた肉が回ってきます。
家には親戚が集まっていて、まずは手っ取り早く
Sate Kambing
にして残った部位はスープなどに使います。
なお、犠牲祭の動物は、食べられない部分を除きすべての部位を食べることが基本です。
剥ぎ取られた皮も、皮製品や絨毯の材料として使われます。
犠牲祭の翌日に、家の軒先に動物の皮が天日干しされているのをよく見かけるのはそのためです。
犠牲祭でのヤギや牛の値段の相場
普段、ヤギや牛などの家畜がインドネシアでどの程度の価格で取引されているかわかりませんが、犠牲祭の市場では、
- ヤギ→約3万円
- 牛→約20万円
が相場です。
牛は値段が高いので複数人で分割購入することが多く、最大7人で購入することができます。
逆にヤギは分割で買うことはできません。
なので、ヤギでも牛も一人当たりの負担額は
約3万円
と金銭的負担は変わらないことになります。
例外的に、会社の社長や政治家などお金持ちは牛を1頭丸々購入して地域のモスクに寄進したりまします。
毎年、ジョコウィ大統領も牛を購入して、選挙対策重点地域や災害地域などのモスクに寄進していますよね。
ヤギや牛はどこで買う?
犠牲祭の時期が近づくと、道路沿いに業者がやってきて特設のヤギ・牛の販売所を開設します。
これまで何も無かった空き地やなどにヤギや牛がたくさんあつまった市場が突如現れます。
犠牲祭用の動物はこうした市場で買うのが基本で、トラックで指定日に家まで運んでくれます。
犠牲祭の数日前から家の庭先に縄で繋いでおくこともあれば、当日の朝に運ばれることもあります。
ちなみに、私はまだヤギも牛も買ったことはありません。
犠牲祭のヤギ・牛を買うときの注意点
犠牲祭ではヤギ・牛の他に羊、水牛、ラクダを寄進することが出来ます。
- ヤギ・羊→1歳以上
- 牛・水牛→2歳以上
- ラクダ→5歳以上
とある程度大きくなっていなければなりません。
健康状態に問題のある動物は寄進できないし、耳やしっぽがちぎれていたり角や歯が抜けているものもだめで、元気でがっちりとした個体を選びましょう。
まとめ
インドネシアの犠牲祭は質素に粛々と行われるのが特徴です。
日本のお盆と同じように、田舎に帰省して家族が集まるという意味合いが大きいです。
コロナ禍の真っただ中にあるインドネシアでは、5月のレバランのジャカルタから田舎への帰省は自粛モードでした。
しかし、今回の犠牲祭ではなし崩し的に国内移動は自由化され、政府もメディアも見て見ぬふりで自粛を求める声は全く上がりませんでした。
おかげで私も嫁の実家に帰ることができたのですが、チルボンでも犠牲祭期間中コロナ感染者が急増しているので、インドネシア全土でコロナ感染者数が再び増えることが心配されています。
※犠牲祭の動画はこちら
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